中国における知的財産権の行使は、かつての「量」の時代から「質」と「誠実さ」の時代へと大きく変容しています。特に2025年末、中国最高人民法院から公表された新たな司法解釈案(専利権侵害紛争司法解釈 三)は、日本企業の中国ビジネス戦略に一石を投じる内容となっています。今回は、その中でも特に注目すべき「悪意訴訟(恶意訴訟)」の認定基準について解説します。1. なぜ今「悪意訴訟」が注目されているのか?これまで中国では、権利の安定性が低い実用新案や意匠権を悪用し、競合他社のビジネスを妨害する「嫌がらせ目的」の提訴が少なからず見られました。これに対し、2025年12月20日に公表された「司法解釈案 第25条」では、どのような行為が「悪意」とみなされるかが明確にリストアップされました。これにより、不当な訴訟を受けた企業が「損害賠償」を逆請求できる道が大きく拓かれたのです。2. 「悪意」と認定される4つの典型ケース最新の司法解釈案(第25条)では、裁判所が「悪意」を判断する際の具体的な基準を以下の通り定めています。公知技術と知りながら取得した権利での提訴 自ら発明したものではない、既に世の中にある技術であることを知りながら取得した特許を武器にすることは「悪意」とみなされます。権利の失効・無効を承知の上での提訴 既に無効判決が出ている、あるいは年金未納などで消滅している権利での行使は許されません。上場や入札を狙い撃ちした「戦略的提訴」 相手企業がIPO(新規上場)、資金調達、M&A、大型入札などの重要な局面にあるタイミングを狙い、法的根拠が乏しいにもかかわらず妨害目的で提訴する行為です。不当な手段による権利取得 重要な事実を隠蔽したり、詐欺的な手段で取得した特許に基づく場合です。3. 日本企業が取るべき「攻め」と「守り」の対策この新基準を踏まえ、実務上では以下の2点を徹底する必要があります。【守り】不当な攻撃を受けた場合相手の提訴が「嫌がらせ」や「IPO妨害」である疑いがある場合、早期に「悪意訴訟である」との反撃(反訴または別訴)を検討すべきです。応訴費用の回収だけでなく、不当な訴訟を抑止する強力な武器になります。【攻め】自ら権利行使をする場合実用新案や意匠権で警告・提訴を行う際は、事前に「専利権評価報告」を取得し、有効性を厳格に評価しておくことが不可欠です。「無効理由があることを知っていたはずだ」と反撃され、逆に損害賠償を命じられるリスクを避けるためです。まとめ:信義則が支配する中国知財の最前線2026年1月からは改正「専利審査指南」も施行され、出願から行使まで一貫して「誠実信用の原則」が求められるようになります。中国ビジネスにおいて特許は強力な武器ですが、その「扱い方」を誤れば自らを傷つける刃にもなり得ます。