2026年4月1日、USPTOは査定系再審査の手続きを大幅に変更する「Pre-order procedure」の導入を発表しました。これまでの「申し立て側の独壇場」だった初期段階に、特許権者が早期介入できる道が開かれたのです。この変更が、特許を守る側(特許権者)と攻める側(申し立て人)にどのような影響を与えるのか。実務上のメリット・デメリットを詳しく解説します。1. 特許権者(申し立てられる側)の視点:攻防の最前線が前倒しに今回の変更で最大の恩恵を受けるのは特許権者です。これまでは「再審査が開始されるのを待つしかなかった」フェーズで、先制攻撃が可能になりました。メリット「再審査開始」を未然に防げる: 再審査が正式に開始(Order)される前に反論できるため、そもそも再審査を成立させない(却下させる)チャンスが生まれます。低コストな防衛策: この事前反論(Pre-order paper)は手数料が無料です。多額の費用をかけずに、早期決着を狙えます。情報の非対称性の解消: 審査官が申し立て人の主張だけを読んで「SNQ(実質的な新しい疑義)」を判断するリスクを回避し、最初から特許権者側の解釈を提示できます。デメリット「30日」という極めてタイトな期限: 申し立ての通知からわずか30日以内に、最大30ページの説得力ある反論書面を作成しなければなりません。手の内を早く見せるリスク: 早期に反論することで、後の手続きで使うはずだったロジックを相手に知られてしまう可能性があります。2. 申し立て人(攻める側)の視点:不意打ちが効かない時代へ一方で、ライバル企業の特許を潰そうとする申し立て人にとっては、戦略の練り直しを迫られる厳しい変更となりました。メリット特許権者のロジックを早期に把握できる: 特許権者がどのような反論(先行文献の解釈など)をしてくるかを早い段階で知ることができます。再反論の機会(条件付き): 特許権者が事前反論を出した場合、請願(Petition)と手数料を支払うことで再反論が可能になります。デメリット「開始決定」のハードルが上昇: 審査官が両者の主張を比較検討することになるため、これまでよりもSNQ(疑義)が認められにくくなることが予想されます。コストと手間の増加: 特許権者の反論を打ち消すための再反論には、追加の手数料と法的な手続きが必要になります。心理的優位の喪失: 「一方的に攻撃を仕掛ける」という構造が崩れ、最初から激しい法的バトルを覚悟しなければなりません。3. メリット・デメリット比較表項目特許権者(防衛側)申し立て人(攻撃側)主なメリット開始前の阻止が可能、手数料無料相手の反論を早期に確認可能主なデメリット30日という短期間での対応が必要開始率の低下、追加コストの発生戦略的インパクト大幅に有利(防御力アップ)不利(攻撃の難易度アップ)4. 結論:これからの米国特許戦略今回の変更により、米国特許の再審査は「不意打ちの戦い」から「初期段階からのガチンコ勝負」へと変貌しました。特許権者としては、申し立て通知を受け取った瞬間に動き出せる体制(現地代理人との迅速な連携)を構築しておくことが必須となります。反対に申し立て側は、特許権者の事前反論を論破できるだけの、より完成度の高い申し立て書類を最初から準備しなければなりません。この「30日の超短期決戦」を制する者が、米国市場における知財の主導権を握ることになるでしょう。おわりに当事務所では、今回のUSPTOの運用変更に伴う戦略の策定や、迅速なPre-order paperの作成支援を行っております。米国特許の有効性について不安や戦略的なご相談がある場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。