米国には日本のような「審査請求制度」がありません。そのため、国内移行手続きを終えると、あとは審査官からオフィスアクションが届くのを待つだけ……というのがこれまでの常識でした。しかし、USPTOは2026年4月、新たなパイロットプログラム「PIER」を始動させました。これは、PCT出願から米国へ国内移行した案件に対し、審査直前に「本当に審査を進めますか?」と問いかける、いわば“擬似的な審査請求ステップ”です。出願人がやるべきこと(アクション)このプログラムはすべての出願に適用されるわけではなく、USPTOによって選定された案件に「情報提供要求(Requirement for Information)」が送られてきます。通知を受けた場合、出願人は以下の3つのいずれかを選択し、回答する必要があります。選択肢内容1. 審査を進める通常通り審査を続行します。2. 審査を遅延させる一定期間、審査の着手を遅らせます。3. 出願を放棄する明示的に出願を放棄します(維持年金や中間費用の節約)。ポイント: この判断を行う際、国際段階での成果物(国際調査報告や見解書)の内容を改めて精査し、米国での権利化の可能性を再評価することが求められます。出願人のメリット戦略的な「待ち」が可能にこれまで米国では審査を遅らせる手段が限られていましたが、このプログラムにより、他国の審査状況や自社の事業戦略に合わせて、合法的に審査着手を遅らせることができます。コストの最適化国際段階で厳しい結果が出ている場合、審査官が着手して費用(現地代理人費用など)が発生する前に、投資対効果を見極めて「早期放棄」という決断を下すきっかけになります。審査の効率化への期待やる気のある出願人が「進める」を選択することで、全体のバックログが解消され、結果的に審査期間が短縮される可能性があります。出願人のデメリット事務手続・コストの増加本来は不要だった「回答」というステップが増えるため、現地代理人とのやり取りや、回答書の提出に伴う追加費用(手数料)が発生する可能性があります。回答期限のプレッシャー通知に対して期限内に回答しない場合、出願が放棄されたものとみなされるリスクがあるため、期限管理の負担が増します。判断の難しさ「とりあえず移行した」案件に対し、早い段階で権利化の可否を再判断しなければならず、知財担当者や弁理士には迅速かつ的確なアドバイスが求められます。まとめ:実務への影響PIERプログラムは、米国特許実務に「立ち止まって考える時間」を強制的に作り出すものです。特に、多くのPCT案件を抱える企業にとっては、ポートフォリオの整理を促す良質なフィルターになるかもしれません。一方で、選定通知が届いた際の初動が重要になりますので、米国代理人からの通知を見逃さないよう注意が必要です。アドバイスもし「Requirement for Information」が届いたら、それは単なる事務連絡ではなく、「その発明に、今、米国で投資する価値があるか」を再考する絶好のタイミングだと捉えましょう。国際段階での拒絶理由をどう克服するか、事前の戦略立案がこれまで以上に重要になります。TANAKA Law & Technologyでは、最新の米国特許制度に基づいた最適な出願戦略をご提案しています。お困りの際はご相談ください。