米国特許庁(USPTO)は2025年12月、米国外に拠点を置く出願人に対し、米国登録代理人(Registered Practitioner)による代理を義務付けるという極めて重要な規則改正案(NPRM)を発表しました。これは、近年問題となっている「中国系ベンダー等による不適切な代理行為」を事実上排除するものであり、日本企業にとってもこれまでのコスト削減手法が通用しなくなる恐れがあります。1. 何が変わるのか?:米国代理人の「完全義務化」今回の規則案の核心は、「米国外に住所を持つ者は、特許に関するすべての手続きにおいて、USPTO登録の弁理士・弁護士を介さなければならない」という点です。これまで認められていた、出願人本人が直接手続きを行う「プロ・セ(Pro Se)」という形態が、外国居住者については認められなくなります。2. なぜ今、メスが入ったのか?:背後にある「中国問題」USPTOがここまで強硬な姿勢を見せる背景には、主に中国のサービス業者による制度の悪用があります。「隠れ代理人」の排除: 米国の資格を持たない外国業者が、出願人の名前を借りて実質的な代理業務を行う「無資格代理」が横行しています。安全保障上の懸念: 米国の先端技術が、身元を隠した外国エンティティによって権利化されることを防ぎ、実質的な支配者(Real Party-in-Interest)を透明化する狙いがあります。低品質な出願の抑制: 補助金目的の不適切な出願が審査を遅延させている現状を打破するため、米国代理人に「ゲートキーパー」としての責任を持たせようとしています。3. 「年金支払いサービス」への甚大な影響多くの日本企業が利用している「格安の年金管理(維持年金納付)サービス」も、大きな転換点を迎えます。直接納付の制限: これまで年金サービス会社が直接USPTOに支払っていた事務手続きも、今後は「米国登録代理人」の署名や監督が必要になる可能性があります。コスト構造の変化: 米国代理人を介在させることが必須となれば、代理人費用が上乗せされ、現在の「格安」モデルが維持できなくなることが予想されます。4. 日本企業が今すぐ確認すべきことこの規則が施行されると、ルールに適合しない出願や手続きは拒絶される、あるいは最悪の場合、虚偽の宣言とみなされて権利が失効するリスクもあります。委託先の再確認: 米国出願や年金支払いを依頼している業者が、実質的に「米国登録代理人」を介さずに手続きを行っていないか確認してください。プロ・セ出願の点検: 自社名義で直接手続き(EFS-Web等を利用)している案件がある場合、速やかに米国代理人の選任を検討する必要があります。規約のチェック: サービス会社が今回のUSPTO規制案にどう対応する方針か、問い合わせることをお勧めします。当事務所の見解今回の措置は、2019年に先行して導入された「商標」の規則改正と同様の流れを汲むものです。USPTOの本気度は極めて高く、特に安全保障の観点から「誰が手続きをしているのか」を厳格に管理しようとしています。「安さ」だけで選んでいたサービスが、結果として「権利の無効化」という最大の損失を招くリスクを、今一度精査すべきタイミングに来ています。