商標
商標は「標準文字」で出願すべき?中小企業のための判断ガイド
結論:社名や商品名を「文字だけ」で守りたいなら、標準文字での出願が基本です。 デザインしたロゴを守りたい場合や、名前そのものに特徴が乏しい場合は、ロゴでの出願を検討します。
この記事の要点は次の3つです。
文字だけの商標なら、標準文字で出しても、普通の書体で書いて出しても、登録後の権利の広さは変わりません。標準文字の利点は、手続が簡単でミスが起きにくいことです。
ロゴが未完成でも、名前が決まった時点で標準文字で出願できます。
名前が商品の説明そのものだったり、ありふれた名字だったりすると、標準文字では登録が難しくなります。
標準文字とは?
標準文字とは、文字だけの商標を、特許庁が決めた書体で登録する出願方法です。 願書に「標準文字」と書き、商標にしたい文字を入力するだけで出願できます。ロゴの画像を用意する必要はありません(商標法5条3項)。
登録されるのは「その文字」であって、特定のデザインではありません。たとえば「TANAKA」を標準文字で登録すれば、看板・パッケージ・Webサイトでどんな書体を使っても、書体を変えただけなら、通常は登録商標を使っていると認められます(商標法38条5項)。
標準文字で出願すべき5つの場面
1. 守りたいのが「名前」そのものであるとき
社名・店名・商品名・サービス名など、守りたいのが言葉そのものなら標準文字が基本です。文字だけの商標は、標準文字で出しても普通の書体で書いて出しても、権利の広さは変わりません。それなら、手続が簡単でミスの起きにくい標準文字を選ぶのが合理的です。
2. ロゴがまだ完成していないとき
商標は、原則として先に出願した人が登録を受けられます(先願主義・商標法8条)。ロゴの完成を待つ間に、他社が同じ名前を出願するおそれがあります。名前が決まった段階で標準文字で出願し、ロゴは完成後に別途出願するのが安全です。
3. ロゴや書体を将来変える可能性があるとき
リブランディングで書体を変えても、書体を変えただけなら登録商標の使用として扱われます。日本国内で継続して3年以上使われていない登録商標は、取消しの審判を請求される可能性がありますが(商標法50条)、書体の変更でこのリスクが生じることは通常ありません。
4. 書体を使い分けているとき
看板は明朝体、Webはゴシック体、名刺は筆記体、といった使い分けは珍しくありません。特定のデザインに縛られない標準文字なら、どの媒体の表示とも整合を取りやすくなります。
5. 海外への出願も視野に入れているとき
日本の出願を基礎にして海外へ出願(マドリッド・プロトコル)する場合、基礎の商標が標準文字なら、商標が同じかどうかは標準文字で表した形を基準に判断されます(商標審査便覧A2.03)。表示の形がはっきりしているため、手続上の整理がしやすくなります。
標準文字では足りない・使えない場面
名前に特徴がなく、文字だけでは登録できないとき
商品の説明そのもの(例:「おいしいパン」)や、ありふれた名字(例:「田中」「TANAKA」)は、文字だけでは他社と区別できないとして登録を拒否される可能性が高くなります(商標法3条1項3号・4号)。
この場合、普通の書体で書いた「ロゴ」にしても結果は同じです。登録の可能性が出てくるのは、特徴のある図形を組み合わせる、他の言葉と組み合わせるなど、識別できる要素を加えた場合です。ただし図形の力で登録された場合、文字部分だけを他社が使うのを止めるのは難しくなる点に注意が必要です。
ロゴのデザイン自体を守りたいとき
シンボルマークや独自のデザインを模倣から守りたい場合は、ロゴ(図形を含む商標)として出願します。標準文字の登録では、デザインそのものは守れません。
標準文字の条件に合わないとき
次のような表示は、標準文字として出願できません(商標審査基準)。この形で権利を取りたい場合は、通常の出願(画像での出願)になります。
縦書きや、2段以上に分けた表示(例:上段「TANAKA」、下段「タナカ」)
30文字(スペースを含む)を超えるもの
色の付いたもの、大きさの違う文字を含むもの
特許庁が指定していない特殊な文字・記号を含むもの
迷ったときの3つの質問
次の順に考えると、出願の形式を決めやすくなります。
守りたいのは「名前」ですか、「デザイン」ですか?
名前 → 質問2へ
デザイン(シンボルマーク等) → ロゴで出願
両方 → 名前は標準文字、デザインはロゴで、それぞれ出願
その名前は、商品の説明やありふれた名字ではありませんか?
特徴のある名前(造語など) → 質問3へ
説明的・ありふれた名前 → 標準文字では登録が難しいため、名前の見直しや組み合わせを含めて弁理士に相談
縦書き・2段書き・色付きなど、その形のまま権利を取りたい事情がありますか?
ない → 標準文字で出願
ある → 通常の出願(画像)を検討
出願前に決めておきたい実務のポイント
出願後の形式の切り替えは原則できない
出願した後で「標準文字」から通常の出願へ、またはその逆へ切り替える補正は、原則として認められません(商標審査基準)。形式は出願前に決めておく必要があります。
表記(カタカナかアルファベットか)を決める
標準文字は、入力した文字そのものが登録されます。普段「TANAKA」と「タナカ」のどちらを主に使うかを決めておきましょう。同じ読みと意味のカタカナ・アルファベットの書き換えは、通常、登録商標の使用として認められます。ただし、漢字への書き換えや、別の意味が生じる書き換えは認められない場合があります。
「株式会社」は付けずに出願するのが一般的
社名を出願するときは、「株式会社」などを除いた部分で出願するのが一般的です。ありふれた名字や地名に「株式会社」「商会」などを付けても、原則として識別力は生まれません。
先に同じ・似た商標がないか調べる
実際に多い拒絶理由は、他社が先に登録している似た商標との抵触です(商標法4条1項11号)。特許庁の無料データベース「J-PlatPat」で事前に調べておきましょう。
予算に余裕があれば「名前」と「ロゴ」の両方を
名前は標準文字で、ロゴは別の出願で、それぞれ権利を取るのが最も確実です。予算が限られる場合は、まず名前を標準文字で出願するのが基本です。
よくある質問(FAQ)
Q. 標準文字で登録すると、ロゴで登録するより権利が広いのですか?
A. 文字だけの商標どうしなら、広さは変わりません。特許庁も、標準文字として登録されるかどうかで権利の範囲は広くも狭くもならないとしています(商標審査便覧19.71)。違いが出るのは、図形など文字以外の要素を含むロゴと比べた場合です。
Q. 標準文字で登録したら、ロゴの出願は不要ですか?
A. 名前を守る目的なら、標準文字の登録で足ります。ただし、シンボルマークやデザインを模倣から守りたい場合は、ロゴの出願も必要です。
Q. 標準文字で出願すると費用は安くなりますか?
A. 特許庁に払う手数料は、標準文字でも通常の出願でも同じです。違いは、ロゴ画像を用意する手間がないことです。
Q. 社名を標準文字で登録すれば、同じ名前の会社を止められますか?
A. 必ずしも止められません。他社が自分の社名を普通の方法で表示する場合には、原則として商標権の効力が及びません(商標法26条1項1号)。
Q. 自分の名字を商標にできますか?
A. 「田中」「佐藤」のようなありふれた名字だけでは、標準文字でも普通の書体のロゴでも、原則として登録できません(商標法3条1項4号)。他の要素と組み合わせる方法を検討します。
まとめ
守りたいのが名前なら標準文字、デザインならロゴ、というのが基本の考え方です。標準文字は、ロゴの完成を待たずに出願でき、書体の変更にも対応でき、手続も簡単です。
ただし、名前に特徴がない場合は、標準文字でも登録は難しくなります。出願形式は原則として後から変えられないため、迷ったら出願前にご相談ください。
