「うちは中国では販売しない。あくまで工場があるだけだから、中国の商標はいらないよ」中国を製造拠点(OEM/ODM)とし、製品はすべて日本やアメリカへ輸出している企業の社長様から、よくこのようなお話を伺います。確かに「販売しない国の権利はいらない」というのは、コスト削減の観点からは一見正しく聞こえます。しかし、知財実務の現場から申し上げると、その判断には2つの大きなリスクが潜んでいます。特に、製品パッケージに「®マーク(登録商標マーク)」を入れている場合は要注意。知らず知らずのうちに、中国の法律違反を犯している可能性があるのです。今回は、輸出型企業が陥りやすい「Rマークの罠」と、製造拠点・中国で商標権を持つことの「経営的なメリット」について解説します。1. 中国で未登録なのに「®」を印刷すると違法?!日本やアメリカで商標登録が完了していると、自信を持ってロゴの横に「®マーク」を付けたくなるものです。実際、日本やアメリカで販売する分には何の問題もありません。しかし、そのパッケージ、「どこで」印刷していますか?もし中国の工場で、「中国では商標登録していない商標」に「®」を印刷し、製品を製造しているとしたら、それは中国の商標法における「虚偽表示(未登録商標を登録商標と偽る行為)」に該当するリスクが高いのです。なぜ問題なのか?商標権は「国ごと」に発生します。日本で登録していても、中国で登録していなければ、中国国内では「無権利」です。 中国の行政当局(市場監督管理局)からすれば、「中国で権利がないのに、中国国内の工場で『登録済み(®)』と嘘の表示をして製造活動を行っている」とみなされるのです。どんなペナルティがある?摘発された場合、以下のような行政処罰を受ける可能性があります。是正命令: Rマークの削除を命じられる(=パッケージの刷り直し、廃棄、納期遅延)。罰金: 違法な売上高(経営額)の20%以下、または最大10万元(約200万円強)などの罰金。「全部輸出するから関係ない」という主張は、中国の行政取り締まりの現場では通用しないケースが多々あります。たかがマーク一つで、工場がストップし、多額の罰金を払うリスクを負うのは、経営上あまりに割に合いません。2. 世界共通パッケージを作れる「コストメリット」では、どうすればよいのでしょうか? 「中国製造分だけRマークを消す(TMにする)」「後からシールを貼る」という対策もありますが、管理が煩雑になり、ミスも誘発します。最もシンプルで、かつ攻撃的な解決策は、「中国でも商標登録してしまうこと」です。中国で権利を取れば、堂々と中国国内で「®」を印刷できます。 これにより、「日本・米国・中国・欧州、すべて同じ版下のパッケージで製造し、世界中にばら撒く」ことが可能になります。在庫管理の単純化、版代の節約、貼り替え人件費の削減。これらを考えれば、中国の商標出願費用(1区分あたり数万円~)は十分に元が取れる投資と言えます。3. 最大の目的は「輸出ルートの死守」Rマークの問題以上に恐ろしいのが、「商標トロール(冒認出願)」による輸出差止です。中国は「早い者勝ち(先願主義)」の国です。貴社が「中国では売らないから」と権利取得を放置している間に、現地の第三者(悪意あるブローカーや、関係が悪化した元代理店など)が、貴社のブランドを勝手に中国で商標登録してしまったらどうなるでしょうか?彼らは、貴社の商標権者として振る舞い、中国の税関に対して「私の商標権を侵害している偽造品が輸出されようとしているので、差し止めてくれ」と申請することができます。こうなると、貴社の「本物」の製品が、中国の港で「偽物」扱いされて差し止められ、日本やアメリカへ出荷できなくなります。これを解除するために、法外なライセンス料や商標の買い取りを要求されるケースが後を絶ちません。中国での商標登録は、こうした「サプライチェーンの人質」を防ぐための「通行手形」なのです。まとめ:中国商標は「販売」のためではなく「安心」のために取る中国を製造拠点とする企業にとって、中国での商標登録は「市場開拓」のためではありません。コンプライアンス: Rマークの虚偽表示による行政処罰を避ける。コストダウン: 世界共通パッケージによる製造・物流の効率化。リスク管理: 第三者による権利横取りと、税関での輸出差止を防ぐ。この3点を守るための「安価で確実な損害保険」とお考えください。当事務所では、日本・米国だけでなく、中国における商標戦略についても、現地の法制度やリスクを踏まえたアドバイスを行っております。「自社の場合はどうすべきか?」と気になられた経営者様は、ぜひ一度ご相談ください。